カズオ・イシグロの「夜想曲集」を読む。
実はカズオ・イシグロの著作を読了したのは初めてなのです。
以前、「わたしを離さないで」を手にしましたが、何だか子供の話のような気がして
魅力を感じず、ギブアップしました。
ただ、これだけでこの作家が自分に合うかどうかを判断するのはやはり早計だろうな
と思っていました。
この「夜想曲集」は短編集ということだったので、1つか2つでも引っかかるものが
あればなあ、との思いで読み進めました。
そして気づいたらあれよという間に読了していました。
楽しさ(一部バカバカしさ)の中にも人との触れ合いの微妙な機微があり、読んで
良かったと感じる内容でした。
全部で5編あります。
「老歌手」
あるバンドメンバーに加わって演奏している時に母の憧れであった歌手に遭遇する。
遭遇といっても自分からねじ込んで行ったのだが。その歌手は夫婦で旅行中で、傍か
ら見ると幸せそうに見えた。そしてその歌手と二人きりになった時にある頼みごとを
されてしまうという話。
子供の頃、母のお気に入りのその歌手のレコードを傷つけてしまうが、後に働いて全て買い揃えて渡すという孝行者が語る話。
「降っても晴れても」
これは、主人公が大学時代に音楽を通じて仲の良かった女友達(恋人ではない)と、
親友の3人が織りなす話。その女友達と親友は結ばれるのだが、決して順調とは言えない。そんな中で主人公が二人の家に泊めてもらうことになる。そこで一騒動となる。
詳しくは言えないが、本当に笑える話。これを読んでカズオ・イシグロという人に対する私のイメージが、何となく取っつきにくいという感じが大きく変わった。
「夜想曲」
技量はそこそこあるのだが中々大成しないサックス奏者の話。彼女から成功しないのは
風貌が良くないからだと指摘される。ズバリ、整形でもしたら、と。
最初は断然拒否していたものの、費用面とかドクターの手配とか徐々に外堀を埋められてしまう。そして実際に整形となるのだが、そのでの療養先での話の展開が面白い。
などなどとなっています。
是非機会があればどうぞ。
私はこの後、「日の名残り」にかかる予定です。
しかし、「降っても晴れても」なんかは春樹党の私としてはそんなに距離のある作家ではないと感じたのですが。つまり、同じようなもので、私にとっては楽しく、大切な作家となりそうです。